三月、学校に通う人たちにとって、もっとも思い出がつくられる季節に、全国的に学校が休校になった。そしてたくさんの予定や楽しみが白紙になった。大人だって同じだけど、でも子どもの学校の楽しみって季節と強く結びついていて、大人よりずっと取り返しがつかない気がする。
時間が過ぎ去るのってマジ邪悪じゃないですか? あのときこうすれば良かったとか言う大人になんかなりたくないし、かといって自分の人生を無理やり肯定して他人に説教する大人には絶対になりたくないし、なのに時間は容赦なく過ぎ去っていくわけで、最高だった瞬間のりんかくは徐々にぼやけていく。
でもやっぱり、時間が過ぎ去るから、どの瞬間も唯一だからこそ、人生はかがやくんだよなあ。なんか、時間への許せなさと尊さが、私のなかでいつも揺らいでいる。
時間があるなら本を読め!とかいう大人にはなりたくないってずっと思ってた。べつに読まなくていいじゃんね。ただ、この記事を書こうと思ったのは、この唯一の三月の取り返しのつかなさに悲しみ、途方にくれた少女がいたときに、なにか自分にできることはないか考えたときに、好きな本を教えるくらいしかなかったのだ。
小学生におすすめの本はちょっと思いつかなかったので、とりあえず中学〜大学生を想定しています。
山田詠美『放課後の音符』
私が中学生のころにベッドに寝転がって何度も読んだ本。少女と大人のあいだに揺れる、17歳の女の子たちの短編集。いま読んでもすごいドキドキしちゃう。
絵の中にいる人間は、絵なんて描かないもんよ。
このシーンがとってもカッコよくてお気に入り。これってたぶん他のことにも言えると思っていて、たとえば、「恋をしている人間は、恋なんて語らないもんよ」とかね。絵のなかにいること、恋をすること、人生を生きることを描写するよりも、そのただなかにいることのカッコよさを感じられる本。
個人的には、この本由来でジントニックが似合うイメージと言われたのがうれしくって、今もたまにジントニック頼んじゃう。
もしこれが好きだったら、山田詠美の不朽の名作『ぼくは勉強ができない』もおすすめ。あとエッチだけど『ベッドタイムアイズ』も最高。
川上未映子『乳と卵』
中学生、生理がはじまったばかりの女の子は、いつも世界に静かに怒っている。なんで希望したわけでもないのに勝手に女にさせられるんだろうって。ほんで彼女のお母さんはなぜか豊胸手術がしたくて、めちゃくちゃおっぱいに詳しい。
この世界のなかで、女という肉体をもった人間として、どう生きていけばいいのさ。私たちは。マジで。
単にあそこから出血する、ってことが女になるってことになって、それからなんか女として、みたいな話になって、いのちを生む、とかそういうでっかい気持ちになれるのはなんでやろうか。
短い話で、文体の推進力(?)がすごいから、けっこうスイスイ読めちゃう本です。
もしこれが好きだったら、川上未映子の最新作『夏物語』がこれの続きみたいになってるので、おすすめ。あと『ヘヴン』っていう、中学生を主人公にした小説もあるよ。
村田沙耶香『生命式』
いろんな世代の人たちの、いろんなドキドキがつまっている短編集。なかでも『魔法のからだ』は中学生の女の子が初めて自慰をする話なんだけど、とてもみずみずしい表現にドキドキする。
こんな、魔法の星屑の塊のようなものが、発生するだなんて思っていなかったし、身体の中がこんなに広い場所だと思ったのも、生まれて初めてだった。
内容は、一番最初に書いた山田詠美の『放課後の音符』に似てるかも。セックスの経験がある友達の語る言葉にもドキドキしちゃう。こんな言語化がうまい中学生いるか!?と思っちゃうけど…。
他の短編もおもしろいです。
もしこれが好きだったら、村田沙耶香のデビュー作『授乳』もとてもいいです。中学生の女の子が家庭教師に授乳する話…!
ぜひ読んでみてね〜!